言語学者が提唱する最も効果的な言語習得方法:インプット仮説

英語学習

こんにちは、総合医です。

前回の記事でスティーブン・クラッシェンが提唱したインプット仮説を簡単に紹介したので、今回はより詳細にクラッシェン先生が提唱した仮説を解説してみたいと思います。

クラッシェン先生はインプット仮説が最も有名ですが、それ以外にもいくつかの仮説を提唱していますので、それらをまとめてご紹介します。

前回の記事でも触れたように、言語習得にへ長い時間が必要で、厳密なエビデンスを作る事が困難な領域です。

そのため、このクラッシェン先生の仮説が唯一無二のエビデンスというわけではもちろんありません。

しかし、クラッシェン先生は子供の言語習得過程や、バイリンガル・トリリンガルの人の言語学習過程を素材として研究を続け、様々な仮説を提唱するに至っています。

少なくとも英語教材を売っている業者の話よりもずっと信頼のおけるものだと思いますので、クラッシェン先生の仮説をぜひ参考にして見てください。

インプット仮説 (Input Hypothesis)

インプット仮説は、クラッシェン先生によって提唱された仮説の中で最も有名なもので、その内容は、言語習得に最も大事な事は大量のインプットを行う事で、そして何よりも学習者が自分の能力よりもわずかに難しい内容のインプットを行うと、言語を最も効果的に習得できるという仮説です。

クラッシェン先生の書籍の中ではこれはComprehensible Input(理解可能なインプット)と紹介されており、「i + 1」とも表現されます。

i + 1 のi とは自身の現在のレベルを示すもので、i + 1とは、自分の現在のレベルよりもわずかに高いレベルのものを指しています。

わかりやすく言うと、自分が90%以上理解できる (Comprehensible) インプットが I + 1 のレベルにあたるという事です。

この90%以上理解できるものを使ったインプットを大量に行なっていく事で言語の習得は最も効率的に進みます。

英語学習以外の場面にこの i + 1 を考えてみると、皆さんもなんとなくイメージが湧くのではないでしょうか?

例えば、言語以外の勉強やスポーツ、楽器のの練習などを想像してみてください。

自分のレベルを遥かに超える難しい応用問題に挑戦し続ければいつかは勉強ができるようになるかもしれませんが、順を追って少しずつレベルを上げていった方が学習の効率は良さそうです。

同じように、サッカーを始めたばかりの子供に高度なドリブル技術を教えても、サッカー技術が向上するには非効率でしょうし、自分のレベルを大きく超えた楽譜の練習をしても、全然ピアノが弾けるようにならないというのは容易に想像が付きます。

勉強もスポーツも楽器の練習も、どれも自分のレベルに合った練習を行なっている時に最も効率よく学習が進むのではないでしょうか?

英語の習得も他の事柄と全く同じです。

習得・学習仮説 (Acquisition-learning hypothesis)

クラッシェン先生は自著の中で、言語の獲得には習得と学習の厳格な区別が存在すると主張しています。

ここでいう『習得』(Acquisition)とは、勉強をしているうちにいつの間にか英文が理解できるようになる過程のことを指しています。

この『習得』は、無意識のうちに起こるものなので、いつ自分ができるようになったのかを口で説明するのが難しいという特徴があります。

一方『学習』とは、英単語を暗記したり、英文法を勉強するような、意識的な学習によって技術を得る過程を指しています。

クラッシェン先生の仮説では、言語能力の向上は習得によってのみ起こり、学習では英語力の向上は見込めないと言っています。

この仮説を聞くと、本当にそうかな?と私も懐疑的になってしまいますが、実際英文法や英文読解を何年も行なって、全然英語が身についていない多くの日本人を見ると、この仮説はあながち間違いではないかもしれません。

言語は無意識的な『習得』によってのみ身につける事が可能と言うこの仮説を聞いた時、私は自転車技術の習得に似ているなと感じました。

自転車に乗るためにはバランスをとりながらペダルを漕ぐ事が必要で、スピードに乗れればバランスが安定するというのは、自転車に乗れるようになる前から知っていました。

しかし、乗り方を知識と知っていても、実際にバランスが取れるようにならないと自転車には乗れるようになりません。

そして、一度自転車に乗れるようになると大人になっても自転車には乗れます。言語の習得も同様のプロセスを辿っているのかもしれません。

モニター仮説 (Monitor Hypothesis)

モニター仮説はクラッシェンのもう一つの理論で、学習者は学んだ文法をモニターとして使用し、話し言葉や文章での誤りを修正するとされています。

『習得』ではなく、『学習』で身につけた文法などの知識は、自身の英語の誤りをモニターして、誤りに気づくという効果があります。

自身で文法や単語の誤りに気がついて、自分で修正を行えるので、正しい文法を使うための手助けになります。

ただ、クラッシェン先生は、このモニター機能は、無意識下に起こる『習得』とは真逆のものなので、『学習』を続けても、誤りを指摘できるようになるだけで、自然な言語を習得することはできないと主張しています。

日本では、受験勉強やTOEICの勉強で英文法を学んだ人が多く、他人の英語のミスや、英語の発音に関して指摘をする人がかなり多いように感じますが、実際にその中で英語がスラスラと話せる人はどのくらいいるのでしょう。

モニターとして機能は十分発揮されていると感じる反面、他人の英語を批評するくらいモニターが敏感で、日本人全体の英語習得にマイナスに影響しているような気がします。

アフェクティブ・フィルター仮説 (Affective Filter Hypothesis)

アフェクティブ・フィルター仮説はクラッシェン先生の理論の一部で、学習者の感情的状態(不安や動機づけなど)が言語習得に影響を与えると言うものです。

例えば、学習者がリラックスしている場合や、学習に対する積極的な意欲が高い場合には、言語学習がより効果的に進む可能性があり、逆に強い不安を感じている状況下では言語の習得が遅くなる可能性があるということです。

多くの英会話講師や、英語教育を行なっている企業はなるべく多くネイティブスピーカーと話す機会を持つ事を推奨していますが、英語力に自信がない段階で英会話を始めて、強い不安を感じていたり、強い緊張にさらされていたりすると、英語の習得はむしろ遅くなっている可能性があります。

英会話教室で、緊張してほとんどまともに話せなかったり、何を話したか覚えていないくらい緊張していたら、結局得られるものもほとんどありませんよね。英語の学習はリラックスしている状態、または強いモチベーションを持った状態で行う事が学習効率を上げるコツと言えるでしょう。

以上がスティーブン・クラッシェン先生が提唱した仮説になります。

皆さんはこの仮説を聞いてどのように感じましたか?

世の中に出回っている英語学習に関するアドバイスとだいぶ異なる事に気が付きましたか?

クラッシェン先生は英会話教室やオンライン英会話サービスで上記の仮説が支持されていない理由として、上記の仮説に則って英語学習を行うと英会話教室を開いている企業が全て倒産して、ビジネスにならないからだと言っています。

必ずしもクラッシェン先生の仮説が100%正しいわけではないとは思いますが、世の中に出回っている英語学習に関する言説に振り回され過ぎないことも意識しておいた方がいいかもしれませんね。

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