疫学基礎② 罹患率と有病率

公衆衛生学

こんにちは、総合医です。

今回は疫学基礎の2回目として、発生率と有病率の違いについてお話ししたいと思います。

疫学を勉強する上で最も基本的な概念であるにもかかわらず、多くの人を混乱させているのがこの発生率と有病率でしょう。

この二つは一見似ているような言葉ですが、示しているものは大きく異なるので、疫学を勉強し始めた際には両者の違いをしっかりと把握する必要があります。

二つの概念の違いを説明する前に、我々は率(rate)と割合(proportion)を理解しておく必要があります。

この二つが発生率と有病率の理解にとても重要だからです。

率(rate):時間的概念を含んだもので、ある物事が起こる速度を示している。

割合(Proportion):時間的概念を含まず、全体の中で特定の集団がどのくらい占めているかを示す指標。

この二つの違いをしっかりと理解した上で以下の内容を読み進めてください。

有病率

有病率は英語ではprevalenceと表現され、主に横断試験などの時間経過を考慮しない試験の場合に使われる指標です。

有病率の定義は『ある時点で、集団内で疾患を有する割合』として表現されます。

ある時点で疾患を持っているのか、いないのかだけを考えます。

つまり時間経過は関係ないので、時間概念は含みません。

発生率と異なり新規の発症なのか、何年も前に発症したのかは問いません。

そして大事なのはこれが割合という点です。

名前は有病なのに割合なんです。

罹患率(発生率)

罹患率は英語ではIncidenceと表現され、発生率とも言われます。

主にコホート試験などの時系列を追った試験の時に使われる指標です。

罹患率の定義は『ある期間中新たに発生、罹患した率』です。

この新たにという所に時間的概念が含まれています。

有病率の時と違い、研究期間中に新たに発生したものを対象とし、研究期間前から病気を持っていた人は対象外です。

例えばある疾患の1年間の罹患率を調べた場合、対象にしている1年間という期間より前に罹患していた人は罹患率に含めてはいけません。

あくまで新たに発症した症例だけを分子にして計算する必要があります。

そのため、罹患率は割合ではなく率という事になります。

罹患率の計算式は以下のように定義されていますが、この時に気をつけなければいけないのは、分母に時間的概念を組み込まないといけない事です。

疫学研究で使われる単位は人年(じんねん)という時間単位です。

人年(person-year)とは、1人の被験者を1年間追跡調査した時に使われる単位です。

半年しか追跡しなければ0.5人年、2人を1年間追跡した場合2人年となります。

おまけ

ちなみに、ここで話している発生率は英語にするとincidence rateと訳されますが、他にもincidence densityと呼ばれる事があります。

これは、incidenceにはincidence densityと別にcumulative incidenceという概念が存在しており、これら2つを明確に分けるためです。

累積罹患率(Cumulative incidence

累積罹患率(Cumulative incidence)は罹患率(incidence rate又はincidence density)と同じように、新しく疾患を発症した被験者に関する指標で、Incidence proportionとも呼ばれたりします。

罹患率との一番の違いは、こちらは時間的概念を計算式に組み込まない、『割合』という事です。

累積罹患率は以下の式で表され、ある期間中に疾患発症リスクのある集団の中で、実際にその疾患を発症した人の割合を示しています。

有病率との違いは、『ある期間中に』という点です。

有病率は『ある時点』であり、一時点の話をしていますが、累積罹患率はある程度の研究期間を設けて、そこで計算する指標です。

罹患率の時は、被験者それぞれが何年間研究に参加したかを集計して人年を求めなければなりませんでしたが、累積罹患率の場合はその必要はありません。

わかりやすいように以下の図で罹患率、その次の図で累積罹患率を説明します。

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上の図の場合、被験者1は研究開始から研究終了まで参加し、発症もしなかったので5人年のカウントです。

被験者2は研究開始当初から参加していましたが、4年目に発症してしまったので、そこでカウントは終了し4人年。

被験者3は研究開始1年後に途中参加し、そのまま研究終了まで発症しなかったので同じく4人年。

被験者4は1年目に途中参加し、2年後に発症したので2人年という事になります。

罹患率は発症した人数をトータルの人年で割った式で求められるので、2÷(5+4+4+2)人年=2/15=0.13となります。

累積罹患率の場合は人年を求める必要はないためもっとシンプルです。

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試験の最初に全ての被験者は決定され、途中参加は考慮しません。

4人の被験者の内、2人が発症したので累積罹患率は2÷4=0.5となります。

今回は疫学基礎②として罹患率と有病率の違いについて説明しました。

もし誤っている箇所などあればコメント欄でご指摘いただければ幸いです。

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