こんにちは、総合医です。
今回は、医学研究の中で臨床研究についてお話ししてみようと思います。
日本の医学研究は基礎研究と言われる、顕微鏡を使って細胞や組織などを用いて調べる研究が主流になっていますが、臨床研究という患者さんのデータを利用した研究方法も行われるようになってきています。
医学の世界の5大雑誌と呼ばれるものも臨床研究を主に紹介しているので、臨床研究に興味を持っている医学生や若手医師も多いことと思います。
今回は、そんな方達のために、臨床研究の大まかな全体像と、臨床医が最初に行いやすい研究方法についてお話ししてみようと思います。
各研究手法についての深掘りは今後改めてお話しする予定です。
臨床研究の種類
臨床研究は大まかに3つの方法に大別されます。
それが質的研究、量的研究、レビュー研究の3つです。
現在の医学研究では量的研究やレビュー研究がメジャーになっているので、ほとんどの人は質的研究と言われてもピンとこないと思いますが、質的研究も立派な研究方法です。
質的研究
質的研究は元々社会科学系の研究で広く使われている研究手法で、数値などは使わずに、インタビューなどから得た情報をまとめることで新しい発見をしていく研究手法です。
数値を使わずに行う研究方法なので、ある程度研究者の主観が入った研究結果になりやすく、どちらかと言えばYesかNoかの臨床疑問よりも、WhatやHowなどの疑問に答えるために行われる研究です。
以前BMJという有名医学雑誌で報告された質的研究では、臨床現場の医師達はどのように医学情報を得ているか?というHowの臨床疑問に質的研究の手法で答えていました。(Gabbay J, le May A. Evidence based guidelines or collectively constructed “mindlines?” Ethnographic study of knowledge management in primary care. BMJ. 2004 Oct 30;329(7473):1013.)
医学研究における質的研究では、主に主題分析 (Thematic analysis) という分析方法をとることが多く、この方法はインタビューや討論の内容を書き起こして、そこからテーマとなるものをタグ付けしていく方法です。
インタビューの内容にタグ付けするために、Nvivoと呼ばれるソフトウェアなどを利用する事が多いです。
Nvivoでは画面の中央にインタビューの文字起こしをした内容が表示され、対応する部部を選択してテーマをタグづけできるようになっています。
例えば、上で紹介したような研究(医師がどのように医学情報を得ているか調べた研究)では、インタビューや実際の医師同士の会話を文字に書き起こし、対応する部分から「日本語医学雑誌」や「先輩医師からの口頭での指導」などのテーマがタグ付けされます。
ここで集まったタグを整理して、最も一般的な方法がなんなのかを調べたりします。
量的研究
量的研究は患者さんから得られるデータをまとめたり、統計的に解析する事によって臨床疑問に応えようとする研究手法で、質的研究とは逆にYesかNoで答えられる臨床疑問に向いている研究方法となっています。
医師の方や、医学研究者の方達にとってはこちらの方が聞き馴染みがあるでしょう。
量的研究の例をいくつか挙げてみると、集まったデータをまとめて提示する「記述疫学」、被験者を2つ以上のグループに分けて違いを比べる「コホート研究」や「ランダム化比較試験」などがあります。
投薬や、治療などを片方のグループにだけ行うような研究を介入試験、人為的な介入を行わずに現象でグループ分けする研究を観察研究と呼んでいます。
ランダム化比較試験などが介入試験、ケースコントロール試験やデータベース研究などが観察研究に分類されます。
各研究手法については今後詳細を別の記事で説明していく予定です。
レビュー研究
レビュー研究は、先行研究がいくつもあり、文献が十分にある時に行われる研究で、先行研究で使われたデータ、もしくは研究により明らかになった結果をまとめる事で行う研究です。
レビュー研究は色々なタイプのリサーチクエスションに答えられるので、Yes/Noの場合でも、WhatやHowに対する臨床疑問にも適応になる研究方法です。
そして何よりも、自分で患者からデータを得る必要がないので、初めての臨床研究としては比較的行いやすい部類になるかと思います。
その代わり文献レビューの工程で何百、時には何千もの文献をスクリーニングする必要があるので、工程自体はかなり大変で、労力と時間がかなりかかるタイプの研究になります。
データ自体はPubmedやGoogle scholar、その他EmbaseやCINAHLといったデータベースがあるので、研究分野によってデータベースを選び、適切な検索ワードを使って文献を集める事になります。
フローチャート
ここまでの話をまとめて、フローチャートにしてみると以下のような感じになります。
はじめに臨床疑問がYes/Noで答えられる疑問なのか考え、もしYes/Noで答えられるタイプの疑問なら図の右側の量的研究が第一選択に上がります。
先行研究がたくさんある場合には文献レビューを行う事で比較的容易にデータを得る事が可能ですが、もし先行研究があまりない場合には自分でデータを集める必要があります。
自分でデータを集める場合、介入研究が可能な場合には介入研究も選択肢に入ってきますが、介入研究は手間もお金もかかるため、研究初級者には観察研究が最も現実的な研究方法になると思います。
逆に、臨床疑問がYes/Noで答えられないタイプの場合、図の左側にある質的研究が最も現実的な研究手法となります。
こちらも、先行研究が充実している場合には、先行研究を集めて文献レビューという方法で研究を行う事が可能なので、あまり手間をかけずにデータを集めるならば文献レビューが一番の選択肢になるでしょう。
しかし、先行研究がほとんどないような場合には、量的研究の時同様、自身でデータを集めてくる必要があります。
臨床医でも行いやすい研究手法
それでは臨床医が臨床研究を行おうと思った時にまず勧められるのはどの研究手法かというと、それは量的研究の文献レビュー、もしくは観察研究になります。
臨床研究でデータを自身で集めようとすると、疫学の高度な知識が必要になったり、そもそも時間と手間が莫大にかかってしまいます。
自分が所属しているグループに経験豊富な上司がいればその人に教えを乞えばいいですが、自身で研究を主導しようと考えると、簡単なことではありません。
そのため、まずはデータを入手するのが簡単な研究から取り掛かるというのが一番実現可能性が高い方法になります。
ただし、文献レビューも観察研究ももちろんしっかりとした知識が必要になりますので、実際に手を出そうと思った場合には、指導してくれる人に教えを乞うか、自信が公衆衛生学修士に入って勉強する必要が出てきます。
今回は臨床研究手法を臨床疑問の種類の観点から簡単に分類してみました。次回以降で量的研究の詳しい解説をしていこうと思います。
コメント