こんにちは総合医です。
今回は総合医として働いていた私が仕事を休職してまで公衆衛生学修士に進学した理由をお話ししたいお思います。
まず公衆衛生学とはどんな学問かというと、集団全体の健康を促進していこうと考える学問です。
医師の仕事は個々の患者さんを健康にする取り組みであるのに対し、公衆衛生学では市区町村、又は都道府県、国単位の人達の健康を守っていこうとするものです。
具体的に公衆衛生学で対象となる分野としては、現在世界中で猛威を奮っている新型コロナウイルスのような感染症のコントロールや、慢性疾患の予防、医療政策、環境医学、途上国での健康増進などがあげられます。
日本以外の国では公衆衛生学の重要性が広く認識されており、公衆衛生学を学んだ疫学者などが政府の医療政策に助言しているのですが、日本では医師の間でさえあまり公衆衛生学の重要性が認識されていません。
その証拠に、日本のニュース番組や、ワイドショーで新型コロナウイルスに対してコメントしている専門家は殆どが開業医の先生や大学病院の教授の医師です。
コロナ分科会会長の尾身先生はWHOで西大西洋地域における感染症(ポリオ)対策に従事していた経験や、SARSの対策にも従事していた事もあるので、公衆衛生学的な知見を持っていると思われますが、私の知る限りでは、過去に公衆衛生学を勉強し、現在コメンテーターとしてテレビ番組に呼ばれている人は木村盛世先生をはじめごく一部の限られた人だけです。
では日本でそれほど認知されていない公衆衛生学を勉強する意味はなにかというと、公衆衛生学を学ぶ事で今後の日本の医療問題を改善できる可能性があると考えているからです。
私は少子高齢化で増え続ける医療費の問題をとても大きな問題だと考えており、これを改善するのに公衆衛生学が役に立ってくれるのではないかと期待しています。
今後日本の高齢者の人数が増え続ければ介護費の増加は免れられません。
日本の多くの家庭が共働きであったり、両親と離れて生活しているため介護ができず、老人ホームに入所する人が増え続けていくと思います。
介護施設に入所する高齢者が増えればその分必要な医療費が増え、社会保険料が増えるという流れになっています。
そして、日本では老衰で食事摂取ができない人でも点滴や胃ろうを作って少しでも長生きさせようとする考えが多数派なので、本人が寝たきりで食事が食べられなくなっても長期入院が可能な療養型病院に入院させ、患者が死ぬまで医療を施し続ける場合が多く見られます。
看取りの時期に入っていても、穏やかに人生の最後を迎えさせてあげるという考えを持つ家族は少なく、多くの場合寝たきりでもなんとか寿命を伸ばすように医療を続けるケースが本当に多いです。
この延命治療を積極的に行うという日本の傾向は、今後も急に変わる事はまずないでしょう。
そして少子化の問題もすでに何年も議論されているのに一向に改善されていない事を考えれば、これから現役世代の人口が増えていく事もほぼないでしょう。
増え続ける社会保険料をこのまま放置し続けると、何十年後かの若者は我々よりもさらに重い税負担に苦しむ事になり、経済的負担を理由に自殺者数も上昇している可能性がかなり高そうです。
この社会保障費の増加を可能な限り緩やかにする方法として、私は高齢者の病気の予防を行い、要介護の状態になるのを可能な限り遅らせるという方法を考えています。
働けないにしても、病気の治療費や介護費が掛からなくなるだけでもかなりの社会保障費削減が見込めるのではないかと考えています。
病気の予防を推進するためには、統計学的な手法で臨床研究を行いエビデンスを集め、そのエビデンスに基づいて行政が政策や制度をつくるというステップが必要です。
公衆衛生学はこのどちらのステップにも関わっており、研究者としてエビデンスを集める事に参加したり、行政のチームに参加して政策立案に関われたりします。
政策を買えることが出来れば、医者一人でできる事を大きく超えた成果が得られるため、長い目で見れば公衆衛生学を学ぶ意義は計り知れないものがあります。
今後医師の仕事に戻るのか、それとも上にあげたような医師以外の立場で医療に携わるのかはまだ決めていませんが、公衆衛生学を学んだ後はより多くの人々の生活の質が上がるように頑張っていこうと考えています。
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