疫学基礎③ (相対危険度、オッズ比など)

公衆衛生学

こんにちは、総合医です。

今回は疫学基礎3回目として相対危険度(Relative Risk)、オッズ比などについてご説明したいと思います。

公衆疫学をかじったことのある人なら一度は見た事はある、2X2の表が今回から出現します。

まずは早速その2X2の表についてご説明します。

2×2-table

まず、2X2の表を作る時の約束事として、結果を上に、暴露(介入)を横に書きます。

a、b、c、dはどのマスにどの文字を入れても良いのですが、多くのテキストで上図のように記載されているので、テキストにならいました。

相対危険度(Relative Risk)

相対危険度は前向き比較試験の時に使用される指標です。

前向き比較試験にはコホート試験とランダム化比較試験が含まれます。

相対危険度が示すものとして、暴露(介入)があった場合、どのくらい疾患を発症しやすくなったのかを比で表したものです。

計算式は、上の2X2の表を用いると以下のようになります。

RR

この時、暴露ありグループ内の発症のしやすさ(a / a+b)は罹患率を示しています。

罹患率の詳しい説明は前回の記事の疫学基礎②を参照してください。(参考記事:疫学基礎② 罹患率と有病率

つまり、相対危険度は、暴露ありグループと暴露なしグループの罹患率の比をとった値という事です。

この後の説明でも罹患率は出てくるので、ここでしっかりと確認しておきましょう。

暴露グループの罹患率はIe(Incidence of exposed groupの略)と表示される事が多く、Ie = a / a+b がなりたちます。

暴露なしグループの罹患率はIue(Incidence of unexposed groupの略)と表示され、Iue = c / c+d がなりたちます。

オッズ比(Odds ratio)

オッズ比は後ろ向き試験の時に使用される指標で、相対危険度と同じように、暴露があった場合に、どの程度疾患を発症しやすくなったかを示すものです。

しかし、後ろ向き試験の場合の場合、疾患を持っている人を探してきて、その人の過去の暴露歴を調べる方法がとられます。

つまり、ケースコントロール試験のような後ろ向き試験では暴露ありグループと暴露なしグループの罹患率を出せないという事になります。

罹患率はある時間内にどの程度疾患を発症するかの指標だったので、すでに発症している人達から、時間を遡って罹患率を出すことはできないのです。

罹患率が求められないという事は、その比である相対危険度も計算する事ができないので、相対危険度の代わりとなる指標として作られたのがオッズ比なのです。

そのため、オッズ比はケースコントロール試験のような後ろ向き試験の時のみ使用されます。

オッズ比の計算式は2X2の表を使って以下のように示されます。

odds-ratio

相対リスク減少(Relative Risk Reduction)

相対リスク減少は「1-相対危険度」で表されます。

つまり、相対危険度が1以下(暴露したグループの方が疾患発症リスクが少ない)の時に、暴露によってどの程度疾患発症リスクが下がったかを示す時に使われます。

相対リスクを利用して計算するので、もちろん前向き比較試験の時にしか使えません。

例として、相対リスクが0.8だったとしましょう。

相対リスクは暴露グループと暴露なしグループの罹患率の比だったので、暴露グループの疾患発症リスクが暴露なしグループと比較して0.8倍だったという意味になります。

これらの関係性は以下の式で表現されます。

RRR

(RRR:相対リスク減少、RR:相対危険度、Ie:暴露グループの罹患率、Iue:暴露なしグループの罹患率)

この時相対リスク減少は1−0.8=0.2となります。

新しい治療薬(暴露)のおかげで疾患発症リスクが0.8倍になったと言われるよりも、疾患発症リスクが20%減少したと言われた方がわかりやすく無いですか?

相対リスク減少の利点はそこにあります。

絶対リスク減少(Risk Difference)

絶対リスク減少は具体的に何人が暴露のおかげで助かるのかを示した指標です。

この指標は暴露グループと、暴露なしグループの罹患率ので得られます。

式で表すと以下のようになります。

RD

(RD:絶対リスク減少、Ie:暴露グループの罹患率、Iue:暴露なしグループの罹患率)

仮に、暴露グループの罹患率が0.2で、暴露なしグループの罹患率が0.1だったとしましょう。

絶対リスク減少はRD = Ie – Iue = 0.2 – 0.1 = 0.1となります。

この数値から、全体の10%の人が暴露が原因で疾患を発症したという事がわかります。

もっとわかりやすく絶対リスクの値を100倍して、100人あたりに換算してみると、10/100人となり、100人あたり10人が暴露が原因で疾患を発症したという事が言えるようになります。

新薬などの研究の場合は、絶対リスク減少がマイナスの値になることがあります(新薬を使った暴露グループの方が、暴露なしグループより罹患率が低い場合)。

この場合でも絶対リスク減少は、その絶対値をとって正の値で示します。

英語の名前を見てもらえるとわかると思いますが、英語ではDifference(差)であって、Reduction(減少)ではないので、正の値にも負の値にもなり得ます。

ちなみに、絶対リスク減少は『寄与危険度(Attributable Risk)』とも呼ばれる事がありますが、こちらも全く同じ計算式で求められます。

治療必要数(Number needed to treat:NNT)

治療必要数は、曝露によって1人分疾患発症を予防するのに、何人に治療(曝露・介入)を行えばよいかの指標になります。

具体的には絶対リスク減少の逆数をとる事で、曝露(介入)が必要な人数を割り出すことができます。

絶対リスク減少は「100人中何人が曝露によって疾患を発症したか」、もちくは「100人中何人が曝露によって疾患発症を予防できたか」とも言える指標だったので、その逆数を取れば、「何人が曝露すれば1人分疾患発症を予防できるか」と言えるようになります。

計算式で表現すると以下のようになります。

NNT

(NNT:治療必要数、RD:絶対リスク減少)

Attributable Fraction

こちらは上で説明した絶対リスク減少から、さらに罹患率の差が全体のどの程度の割合なのかを示した指標です。

正確に言えば、絶対リスク減少と同じ意味の寄与危険度(Attributable Risk)を元々の罹患率で割り算をして求める値という事になります。

計算式は以下の式で表されます。

AF

(AF:Attributable Fraction、Ie:曝露グループの罹患率、Iue:曝露なしグループの罹患率)

ちなみにAttributable Fractionの式の構成から、以下のように計算することも可能です。

AF2

(RR:相対危険度)

実際の試験ではあまりありませんが、それぞれのグループの罹患率はわからないけれど相対危険度だけはわかるという状況では上記の計算式でAttributable Fractionを計算する事が可能です。

公衆衛生学修士の疫学の試験では利用する機会があるかもしれません。

Population Attributable Fraction

この指標は、大きな集団(population)全体で考えた時に、暴露がどの程度疾患発症に影響しているかの推定値です。

ここでいう大きな集団というのは国の人口や、都道府県単位の人口集団を指します。

人口全体で暴露グループ、暴露なしグループの罹患率をそれぞれ求めるのは困難ですし、相対危険度も国民全体で考えるのはかなり大変です。

そのため、小さな集団から推定した相対危険度と、大きな集団内での疾患の有病率の値を利用して、大きな集団内で暴露がどの程度影響しているかを推定するという考え方がこのPopulation Attributable Fractionです。(日本語の訳がGoogle検索でヒットしませんでした)

Population Attributable Fractionは以下の式で表されます。

PAF

(PAF:Population Attributable Fraction、F:大きな集団内での有病率、RR:相対危険度)

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