医学論文はMethods部分もしっかり読めるようになるべきか?

今回は医学論文を読む時に、若手医師はどこまで読めるようになるべきかという話をしてみたいと思います。

抄読会で英語論文を読むけれども、Methodsの統計の部分が全くわからなくていつもどうしていいかわからず困っているという若手の医師は多いのではないでしょうか?

特に研修医の時はMethodsに書かれている『Cox Hazard Model』や『Multivariate regression model』など小難しい名前を聞いてもなんのことかさっぱりわからないと思います。

少なくとも私が学生だった頃は統計学についてそこまで詳しい授業はなかったので、私は研修医の時にとても困っていました。

それでは若手の医師は一体どこまで理解する必要があるのでしょうか?

結論

結論から言ってしまえば、細かい統計解析の手法まで全て理解する必要は全くありません。

それは疫学研究者や生物統計家の人達が専門にしている分野です。

臨床研究に興味があり、今後自分も研究したいというのであれば理解しておくに越した事はありませんが、実際の臨床研究を行う医師も研究を行う時には統計家や疫学者に相談をする事が多いです。

それに、医学の勉強をしながら統計学の勉強も行うのはなかなか大変なので、医学の勉強を優先すべきです。

余裕がある時に少しずつ勉強を進めていく程度で構わないと思います。

ただ、基本的な臨床研究の手法は理解しておかなければ論文の理解が浅くなってしまいますし、難しい統計モデルも何を調べるためのものなのかだけは理解しなければならないので、基本的な部分だけは押さえておきましょう。

基本の研究手法

研究手法に興味を持った時に最初に勉強すべき事は、基本となる伝統的な研究手法です。

学生時代に公衆衛生学を勉強した事がある方は聞いた事があると思いますが、コホート研究、症例対象研究、ランダム化比較試験 (RCT)などが基本的な研究手法に当てはまります。

それぞれ介入群 (暴露群)とコントロール群に分けて、2つのグループを比較してリスク比やオッズ比を求めるという方法が一般的です。

基本的に検定の方法はシンプルなので、これらの基本的な研究手法が用いられている場合は統計解析の手法にそれほど注意する必要はないと思います。

ただし、2グループ間で被験者の特徴にあまりにも差があったり、RCTでIntention-to-treatが守られていない場合、その他にも試験からの離脱者が多い場合にはバイアスが強くなってしまうので、これらのポイントに注意して論文を読めると良いと思います。

ちなみに、2群間の差や試験からの脱落者をどのように扱っているかを気にするのが疫学に当たりますので、臨床試験を批判的に吟味できるようになりたい人はまずは疫学の教科書を参照してみると良いでしょう。

基本的な研究手法に関してはこちらの記事でも簡単に説明しています。

モデルとは?

臨床試験を行なっている論文を見ていると、頻繁にモデルという言葉に遭遇します。

これは基本的な研究手法から一歩進んだ研究方法になり、統計学が占める比重が大きくなる手法です。

統計モデルがどういうものかというと、データからパターンを見つけ出して、変数どうしの関係性を数学的な方程式で表現したものの事を言います。

例えば、線形回帰モデルというモデルでは、Y = a + bXという一次方程式を基本の考え方で使い、変数『X』が変化した時にどの程度変数『Y』が変化するのかを調べます。

モデルを使うメリットとして、交絡因子をモデルに組み込む事でバイアスを簡単に調整する事が可能な点が挙げられます。(交絡因子とは結果(Yの値)を歪める因子のことです)

例えば、交絡因子がすでにわかっているならば、先ほどの線形回帰モデルに組み込み、Y = a + B1X1 + B2X2 という形にし、X2に交絡因子を組み込めば、交絡因子を調整した状態でのX1の効果を測定することが可能となります。(交絡因子は調整が必要なら幾つでもモデルに組み込めて、それぞれに係数を置いてBnXnという形でモデルに足していきます)

数学的に言えば、X2を固定した時のX1とYの関係という表現に近いと思います。

一次方程式以外にも、二次方程式の形を取ったり、その他の形を取ることがありますが、「◯◯ model」とMethods部分に書かれている場合には、数学的な方程式の形に当てはめて変数同士の関係性を調べていると考えてもらえれば良いです。

Cox Proportional Hazard Modelとは

Cox Proportional Hazard Modelとは、調べたいイベントが発生するまでの時間を考慮した上で2グループ間のハザード(リスク)を調べるためのモデルです。

イベントが発生するまでの時間の事を生存時間と言ったりもします。

例えば、新しい治療方法と既存の治療方法でどちらの死亡率がどの程度高いかを調べる事が可能です。

ハザード(リスク)と呼ばれているのは生存時間という時間の概念がモデルに組み込まれているので、他のモデルと異なる名前の結果が出ています。

モデルの数式を理解する必要はありませんが、簡略化したものをお示しすると、下のような式になります。

h(t|x) = h0(t)esp(a1X1 + a2X2)

ここでesp()は数学のネイピア数とその指数を示す表記で、上の式で言えば、a1X1 + a2X2がeの指数として付いているということです。

このモデルに交絡因子を全て入れることで交絡因子を調整する事ができ、その上で調べたい効果の強さを調べる事が可能です。

Coxモデルでは調べたい効果の強さはリスクの比、つまりリスク比で示されます。

例えば、新しい薬剤を使用したグループと使用しなかったグループで疾患の発症率を比べた場合、リスク比でグループ間の発症率の比を示す事ができます。

まとめ

  • 研修医の間はMethodsの部分はそれほど気にしなくて良いでしょう。
  • 研究デザインで何を比べているのかはしっかりと把握する必要があります。
  • 統計モデルを全て知っている必要はありませんが、基本的なもののイメージはできるようになっておくと良いでしょう。

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